会報記事


花と私とゴルフ

早川 初枝(監査役)


 私が花を好きになったのは、花の好きな母の影響が大きいと思います。冬の厳しい北海道・狩勝峠に近い十勝平野で育った私は、四季の移り変わりには殊のほか敏感でした。春まだ浅い雪解けの頃、ほんのわずかな隙間から顔を出す福寿草の花、力強く芽吹く水仙、小川のせせらぎの音にふと振り返ると、雪解けの水の滴る川縁に眩しいまでに輝くリュウキンカ(艶のある山吹色の花)。毎日、何か一つ二つ春を見つけ、心がわくわくしたものでした。
♪春が来た、春が来た、何処に来た
 昔も今も変わらずに好きな歌です。
 そしてもう一つ好きなことはゴルフです。子供達が巣立ち、二人きりになった時、共通の楽しみを持とうと思い、主人の趣味でもあるゴルフを始めることにしました。
 最初の頃は、まっすぐに打ったはずのボールは勝手気ままに木の下か山の中。グリーンを狙えばグリーンの向こうに元気よく出て行き、グリーン上のパットも自慢じゃないけれど元気でした。それでも懲りず、苦になりませんでした。ゴルフは何しろ下手で、苦になったのはむしろ主人の方だったことでしょう。ボールを追いかけ、木の下や山裾で思いがけなく出合える山野草。あまりの可愛さに感激して眺めていると「早くしろ」と背後から主人の雷が落ちる。しまいには夫婦ゲンカになり、もう二度とついていくものかと心に決めたはずが、また、いそいそとついていく私でした。太陽の下、そよ風の中で、心地よい野鳥の声を耳にしながら、思いがけないところで思いがけない草花に出合える。それがうれしくて続いたゴルフでした。


試行錯誤からの出発
 ゴルフがきっかけで手がけたのが、ゴルフ場にワイルドフラワーを植えることでした。都会の人々がコンクリートジャングルを抜け出して、日ごろの疲れを癒し、明日への活力のお手伝いがわずかなりともできればという思いからでした。花を植えたり種を蒔いたりするには土を耕し、花壇のように仕切りをつけるのが常ですが、表面に少しでも土が出ているとすぐ雑草がはびこります。植物の世界も弱肉強食の世界。そこで雑草のはびこりを防ぐために「芝の上」に花の種を蒔き、芝と花を共存させることを研究しました。それには芝の強さと花の強さが同じくらいのものを選ぶことが大切でした。このような植え方をする専門家はまだいなくて、すべてが試行錯誤でした。それだけにやりがいもありました。
 太陽の光を受けて美しい花。太陽の光を透して美しい花。夕日の赤みを帯びて美しさが増す花。風にそよぐ可憐な花。ひまわりのように太陽に顔を向ける花(植え場所を間違えれば花はお客様に背を向けます)。植物生態の面白さにどんどん引き込まれ、考えているのが面白くて楽しくて、夜が明けるのも忘れて文献を読みあさりました。無我夢中でアッという間に20年が過ぎてしまいました。
 その間、富里・カレドニアンを設計してくださったマイケル・ポーレットより手紙が来て、アメリカの農大の先生にいろいろ教えてやってほしいと依頼がありました。慣れないレポートを長々と書いたりもしました。また、ある日本の有名な園芸会社の専門誌に、私の植栽した写真が何ページも載り、早川初枝氏撮影とだけ書いてあり、植栽はあたかも自分たち。しかも載せた本人から本を送っていただき、これまた、びっくり。


樹木への愛情と自然を残す努力を
 その後も興味はどんどん広がり必然的に樹木にも目がいきました。その地に合った落葉樹は土を肥やし、地下水を浄化して良い水をつくり、小鳥も集まることがよくわかりました。時間があれば実生(みしょう)で生える木、コースに合う木を選び植えています。
 それに比べ、千葉県の山武杉は戦時中にほとんど伐採され、戦後の杉は枝を挿木して育てたものなので、実生(みしょう)で育てたのと違い、強い風、台風が来ると風の通り道は簡単に折れて見苦しくなります。また間伐されない杉林には鳥も寄ってきません。土地もやせ、杉花粉に悩まされます。葉の色が濃すぎるのもゴルフ場にとってはイメージが暗すぎます。
 あるラジオ放送で、北陸の牡蠣を美味しくするために、住民が海へ注ぐ川の上流に落葉樹を植え、栄養分を多量に含んだ水を流し込むことによって、味の良い牡蠣を育てるのに成功したという話を聞きました。自然を大切にし、人間が壊した自然は元に戻す努力をしなければ、私たちの子孫が生きていけるか心配です。
 私は10年後、100年後のゴルフ場の樹木を考えるようになりました。そして来場されるゴルファーの気分のよくなる木を産地をめぐって求めました。メタセコイヤ、カエデ、モミジ、クロモジ(つま楊枝の木)、木蓮、桜、花桃、エノキ、ムクノキ、ケヤキ、クヌギ、ネムノキ、カツラ、サルスベリ、アジサイ、コナラ、イチョウ等々の苗木を植えコツコツと育てています。


喜びをゴルファーの皆様と一緒に
 人や鳥や自然にやさしく、新緑、紅葉、黄葉がきれいで緑の葉も明るい色を選ぶようにしました。そして藪がないと住みつかない鶯やうずら、きじ、たぬきのためにも藪も大切にしています。四季折々に花が咲き、何万人も来てくださるお客様に喜んでいただけたらこんな幸せはありません。主人が大切に育てているゴルフ場を、コースのメンテナンス、サービスはもちろんのこと、お花やゆったりと大きく育った樹々、美しい山里の景色で他のコースとの差別化を図り価値を上げる。性格は水と油ですが、主人とは共通の価値観で夢を持ち続け、ともに仲良く歩んでおります。
 樹々の手入れにとりかかると食事も忘れて、植物への愛情がドカンと顔を出します。自分の限られた時間の中で、いかに多くの手入れをキメ細かくこなすか必死です。朝、コースへ行く車中で、おにぎりをしっかり食べ、昼食もとらず、夕方、足元が見えなくなるまで休まずに働くことが苦になりません。この不思議なエネルギーはどこから湧いてくるのか、自分でもわかりません。時々、自分はまるで火の玉のようだと思うことがあります。すべてボランティアでやっていることですが、楽しくて、楽しくてこのような仕事ができるのも主人のおかげと感謝、感謝の毎日です。メンバーの皆様やお客様の喜んでくださる声を聞くことが多くなり、それが私の喜びであり、生きがいであり、活力につながっているのだと最近気付きました。
 今回、たまたま原稿を書くことになりました。最後になりましたがいつも富里ゴルフ倶楽部、カレドニアン・ゴルフクラブをご利用いただきまして心より感謝申し上げます。


『TAM ARTE QUAM MARTE』51号より抜粋